記事 / Interview 2026.05.03 公開 0分で読める 0 views

"いい仕事" の定義は変わったか。

フリーランス10年目。3人のデザイナーに「いまのいい仕事」を聞いた。単価でも納期でも肩書でもない、それぞれの "ちょうどよさ" のかたち。

YF
Yusuke Fujiwara / Yusuke Fujiwara 編集 · Design.japan 編集部 · 取材執筆

10年前にフリーランスになったとき、私が "いい仕事" だと思っていたものは、いまの私が見るとずいぶん違う。当時は、単価が高くて、メディアに載って、見栄えのする案件が "いい仕事" だった。クライアントの満足度より、業界での評価のほうが少しだけ大事だったかもしれない。

10年経った今、その物差しでは納得できなくなった。単価は高くてもしんどい仕事はあるし、地味でも10年残るブランドの仕事は気持ちがいい。"いい仕事" は、人によって、季節によって、揺れる定義になってきた。

今回は、私と同年代でフリーランスとして活動するデザイナー3人に、「いまのあなたの "いい仕事" の定義」を聞いた。Yusuke Fujiwara(ブランディング・10年目)Yusuke Fujiwara(UI/UX・8年目)Yusuke Fujiwara(クリエイティブ・テクノロジスト・7年目)。3人とも答えは違ったけれど、共通する一つのことがあった。

01Yusuke Fujiwara「お互いに、いいクライアントだったね、と言えるかどうか」

独立10年目のあなたに最初に会ったのは、2017年の渋谷の小さな展示会だった。当時は事業会社のアートディレクターをしていて、独立してまだ数年。今は東京に拠点を構え、年間20件ほどのブランディング案件を回す、業界では知られた存在になった。

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FIG. Yusuke Fujiwara・撮影 中沢誠

そんなあなたに「いまのあなたにとって "いい仕事" って何ですか」と聞くと、答えは私が予想していたものとは違った。

いい仕事の定義?それは、終わったあとに「お互いに、いいクライアントだったね」と言える仕事ですね。クライアントから見て、自分はいいデザイナーだったか。自分から見て、クライアントはいいクライアントだったか。 — Yusuke Fujiwara

"いいデザインかどうか" でも "予算がいくらか" でもなく、"関係がよかったか"。これは私には少し意外な定義だった。聞き返すと、あなたはこう続けた。

「最近気づいたのは、デザインの質は、関係の質を超えないってことなんですよ。クライアントが正直なら、自分も正直になれる。クライアントがリスペクトをくれるなら、こちらも全力を出せる。でも逆もそう。なめられている案件で、すごい結果が出ることはほぼない。」

「だから、案件を選ぶ基準は、"このクライアントは、僕にとって、僕はこのクライアントにとって、いい関係を築けそうか" になりつつあります。3年前と比べて、確実に厳しくなりました。」

10年目の "断る基準"

具体的にどういう案件を断るようになったか、と聞くと、あなたは少し笑ってこう答えた。

  • 初回打ち合わせで、こちらの単価表を見て露骨に値切ってくる相手
  • 「他の制作会社にも声かけてるんで」と最初から言ってくる相手(=競争を好む相手)
  • 「センスの問題なんで、何案かもらえれば」と、こちらの判断より自分の好みを優先しそうな相手

「これは年齢じゃなくて、経験量だと思います。100件くらいやって初めて、最初の30分でその関係が見えるようになる。そしてその30分の判断は、けっこう当たります。」

02Yusuke Fujiwara「自分が、5年後にも誇れるかどうか」

次に話を聞いたのは、メルカリのUI/UXデザイナーとして働きながら、副業でも複数のプロダクトに関わるYusuke Fujiwaraさん。フリーランスではないが、副業の選び方が私には興味深かった。

「会社員と副業の違いって、責任の取り方だと思うんです。会社の仕事は、会社が決めた範囲で全力を出す。でも副業は、自分が選んで、自分が責任を取る。だから案件を選ぶときは、もっと厳しい基準を持っています。」

その基準が、「5年後にも誇れるかどうか」なのだという。

いま見て格好いいだけじゃなくて、5年後の自分が、これを副業ポートフォリオに残しておいて恥ずかしくないか。それを毎回、案件の最初に問いかけます。

"Trendy" じゃなくて "Lasting"。それが私のいい仕事の定義です。 — Yusuke Fujiwara

「具体的には、3年前に話題になっていたUIスタイルが、いま見るとちょっと古く見える、ってことよくあるじゃないですか。その逆をやろうとしている。10年前のデザインが、今見ても古びていないものって、必ずある。それは、トレンドの上に乗っていなかったから。」

あなたは、副業で受ける案件を年に4〜6件に絞っているという。「数を制限することで、選ぶ目が鍛えられる」のだと。

03Yusuke Fujiwara「面白いやつと、面白いものをつくる」

3人目のYusuke Fujiwaraさんは、京都を拠点にWebGL・3Dを駆使するクリエイティブ・テクノロジスト。彼の答えはシンプルだった。

面白いやつと、面白いものをつくる。
それだけ。

「もう少し丁寧に言うと、自分がやったことのない領域に挑ませてくれる人と、自分が予想しなかった結果を一緒に喜んでくれる人と、仕事をしたい。これは年々、シンプルになってる気がします。」

あなたは独立して7年。最近の案件は、海外のブランドが半分以上を占める。「日本だと、まだ "WebGLでやる必然性" を説明する時間が長すぎる。海外のクライアントは、そこが端折れる。打ち合わせ1回少ないだけで、こちらのモチベーションが大きく違う。」

"ワクワクの濃度" を測るようにしている

「やる前に、自分のワクワクが何%あるかを、自分に聞くようにしています。70%以下なら、断るか、相手と話して70%まで持っていく工夫をする。それでも上がらなければ、今は受けない。」

これは、案件の評価ではなくて、関係の評価だとあなたは言う。「ワクワクは、自分一人ではつくれない。相手との化学反応です。」

043人に共通すること

3人の答えは、表面上はそれぞれ違う。あなたは "関係性"、あなたは "持続性"、あなたは "化学反応"。でも、よく聞いていると、3人とも同じことを別の言葉で言っているように感じた。

10年前の "いい仕事" は、客観評価で決まった。賞、メディア掲載、単価。10年経った "いい仕事" は、主観評価で決まる。自分が誇れるか、自分がワクワクするか、自分が良い関係を築けたか。

これは、デザイナーが甘くなったわけではない。むしろ厳しくなったのだ。客観評価は他人が決めるが、主観評価は自分が決める。逃げ場がない。日々の自分の感覚を信じて、その都度判断していく。それは、簡単ではない。

でも3人を見ていて、共通して言えることがもう一つあった。みんな、楽しそうだったのだ。10年やってきて、その10年で自分の物差しを獲得して、その物差しで仕事を選べるようになって。それは、贅沢な状態だ。


— 取材・執筆: Yusuke Fujiwara、撮影: 中沢誠、デザイン: Yusuke Fujiwara、コンセプト: Design.japan 編集部

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— ABOUT THE WRITER

Yusuke Fujiwara UX デザイナー / リサーチャー · Design.japan 編集部

事業会社でUXリサーチに従事しつつ、Design.japan の編集部で月2本程度の記事執筆を担当。書くことを通じて、自分の考えを整理しています。

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